前立腺がんについて
前立腺の場所とはたらき
前立腺は男性だけにある臓器で、膀胱のすぐ下にあります(図1)。大きさは栗の実と同じぐらい、形状も栗を逆さにしたようで、真ん中には尿道(おしっこの通り道)が通っています。また、前立腺は骨盤の奥深くにあり、体の表面からは前立腺に触れることはできません。そのため、前立腺の状態を確認するには、直腸診(肛門から指を入れて周囲の臓器を触る)という方法を用います。 前立腺では精液の一部が作られており、主に生殖と排尿にかかわる臓器といえます。
前立腺の構造
前立腺の構造は、真ん中を通っている尿道を中心に考えるとわかりやすくなります。おおまかに分けると、尿道に接している部分が内腺、その外側が外腺です。最近では、内腺を「移行領域」と「中心領域」に、外腺を「辺縁領域」に分類するのが一般的です(図2)。
前立腺がんは前立腺に発生するがんで、主に辺縁領域から発生します。辺縁領域は尿道から離れているため、前立腺がんが小さいうちは、尿が出にくいなどの自覚症状はなかなか現れません。
一方、良性の前立腺の疾患として前立腺肥大症がありますが、前立腺肥大症は一般的に移行領域から発生するため、尿道が圧迫されて尿が出にくくなります。
前立腺がんと男性ホルモン
生まれた時、前立腺は非常に小さな臓器ですが、思春期には男性ホルモンのはたらきによって栗と同じぐらいの大きさにまで成長します。思春期以降は、前立腺の大きさはほぼ変化しませんが、何らかの理由で男性ホルモンの量が極度に低下してしまうと、前立腺は小さく縮んだ状態になります。前立腺が正常な大きさを保つためには、男性ホルモンが必要ということになります。
前立腺がんは、この男性ホルモンによって成長、増殖することが知られています。男性ホルモンは主に精巣で作られ(そのほか、副腎、前立腺がん組織でも作られる)、血液によって運ばれて前立腺がんに届きます。前立腺がんには「男性ホルモン受容体」という男性ホルモンの受け皿があり、この受容体が男性ホルモンを受け取ると、がん細胞が成長、増殖します(図3)。
前立腺がんの頻度
2018年の日本国内統計(がん情報サービス「がん登録・統計」)によると、前立腺がんの頻度は、男性のがんのなかで1番高いことがわかっています。前立腺がんは高齢者に多いがんで、ゆっくりと進行することも多いため、前立腺がんが直接の死亡原因とならずに天寿をまっとうする方もいます。
年齢別にみると、前立腺がんの患者数は50歳過ぎから増えはじめ、60代半ばから大きく増加します(図4)。日本国内の前立腺がんの患者数は年々増加していますが、これは人口の高齢化、食生活の欧米化、前立腺がん検診の普及などが影響していると考えられます。
前立腺がんの要因
前立腺がんにかかりやすい最も大きな要因は加齢です。40歳以下で前立腺がんにかかることは非常にまれです。2番目の要因は遺伝です。もし、ご家族(父親や兄弟)のなかに前立腺がんにかかった方が1人でもいた場合は、まったくいない場合に比べて、前立腺がんになるリスクは2倍に高まるといわれています1)。40歳以上の方で、ご家族や親戚に前立腺がんにかかった方がいる場合は、早期発見のためにPSA検査(前立腺がんのマーカー検査)を受けることがすすめられます。また、前立腺がんは男性ホルモンによって成長、増殖することから、男性ホルモンの量も前立腺がんの発生とかかわりがあるのではないかといわれています。