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前立腺がんについて

前立腺がんの治療

前立腺がんの治療法

前立腺がんの主な治療法には、手術療法、放射線療法、そして薬を用いる薬物療法(ホルモン療法や化学療法)があります。低リスクのがんであれば、治療をせずに経過を観察して、病状の進行や悪化の兆候がみられた時点で治療を開始する「監視療法」を行うこともあります。どの治療法を選択するのかは、前立腺がんの病期分類やリスク分類のほか、それぞれの患者さんの体の状態、年齢、がん治療に対する考え方や希望などを総合して決定します。 以下に、病期別の治療アルゴリズムを示します(図1)。なお、実際には、手術療法、放射線療法、薬物療法などを組み合わせた治療が行われます。

図1 病期別の治療アルゴリズム

図1 病期別の治療アルゴリズム

手術療法

手術療法は、前立腺がんの完治を目指した治療法です。ほかの臓器のがんでは、がんのある部分を切除し、正常な部分は残す部分切除が行われることがありますが、前立腺がんでは、前立腺すべてを摘出する「前立腺全摘除術」が行われます。主な対象はがんが前立腺内にとどまっている低リスクから中間リスクの患者さんですが、リンパ節転移や遠隔転移がなければ、高リスクや超高リスクの患者さんでも手術療法は治療選択肢の1つになることがあります。
一般的に、前立腺全摘除術ではおへその下を縦に切開して、前立腺だけでなく精嚢や周囲のリンパ節も一緒に摘出し、その後、膀胱と尿道(おしっこの通り道)を縫い合わせます。前立腺のすぐそばには性機能(勃起機能)に関係する神経があるため、可能な場合はこの神経を残す「神経温存手術」が行われます。また、最近は手術支援ロボットを用いたロボット手術が急速に普及してきました。国内で実施できる施設はまだ限られますが、手術の精度と治療成績の向上が期待されています。

① 外照射

外照射では、専用の治療装置を使って、がんの周囲にある正常な組織にできるだけ影響が及ばないように配慮しながら体の外側から前立腺がんに向けて放射線を当てます。最近では技術が進歩し、さまざまな角度から放射線の強度を変えて当てることで、周囲の正常な組織への影響を最低限に抑え、がんへ集中して多くの放射線を当てることができる治療法(強度変調放射線治療;IMRT)も開発されています。なお、外照射には、X線のほか、重粒子線や陽子線など、特殊な粒子線が使われることもあります。
外照射の長所は、放射線を当てている際の体への負担が比較的少ないことですが、放射線を一度にたくさん当てることができず、毎日少しずつ治療するため、治療期間が長くかかります。副作用としては頻尿、排尿困難などの排尿障害や直腸出血などが起こることがありますが、IMRTではより軽度であるといわれています。

② 組織内照射

組織内照射では、「永久挿入密封小線源療法」が広く行われています。この治療法は、放射線を放出する線源(放射性同位元素のヨウ素125)を密封した小さなカプセルを前立腺内にいくつか埋め込み、体の内側から前立腺がんに向けて放射線を当てるものです(図2)。
カプセルは永久的に前立腺内に残りますが、時間が経つと放射線を出さなくなるため、残っても人体に害はありません。中間・高リスクの前立腺がんに対しては外照射と併用することもあります。 永久挿入密封小線源療法の長所は、治療(線源を埋め込む手術など)に要する期間が短いこと、一定量の放射線を安定してがんに当てられることなどです。副作用の症状は外照射と同様ですが、放射線の照射が前立腺に限られるため、比較的軽度であることが多いとされています。
また、体外に出る放射線の量は非常に少ないですが、周囲の人が放射線に被曝するリスクはゼロではないため、治療後1年間程度は子供や妊婦との長時間の接触は避けることが望ましいとされています。

図2 永久挿入密封小線源療法

図2 永久挿入密封小線源療法

超音波プローブで前立腺の画像を見ながら会陰部から針を刺入し、その針を通して小さな線源(カプセル)を埋め込んでいきます。

薬物療法

再発・再燃後の主な前立腺がんの薬物療法には、ホルモン療法や化学療法、また放射性医薬品を用いた治療法などがありますが、中心的に行われているのはホルモン療法です。化学療法は、ホルモン療法が効かない、または効果が弱くなった状態の前立腺がんに対する治療選択肢の1つです。
なお、ホルモン療法により男性ホルモンの分泌が抑えられているにもかかわらず悪化する状態のがんを「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC:Castration Resistant Prostate Cancer)」といいますが、CRPCの治療ではこれらの薬物療法が用いられます。

① ホルモン療法

前立腺がんはアンドロゲン(男性ホルモン)によって成長、増殖します。ホルモン療法は、この男性ホルモンの分泌やはたらきを抑える薬を用いた治療法です。ホルモン療法で使用される薬には、LH-RHアゴニスト、LH-RHアンタゴニスト、抗アンドロゲン薬や、アビラテロン(ザイティガ®)のようなアンドロゲン合成阻害薬などがあります()。また、より治療効果を高めるために、精巣摘除術またはLH-RHアゴニスト(LH-RHアンタゴニスト)に抗アンドロゲン薬を組み合わせて行うCAB(Combined Androgen Blockade:複合アンドロゲン遮断)療法という併用療法もあります。
ホルモン療法は転移性前立腺がんの中心的な治療法として用いられますが、高齢のため前立腺全摘除術や放射線療法を行うことがむずかしい場合や、局所進行性の前立腺がんに対して手術や放射線療法と組み合わせて行われることもあります。
ホルモン療法の副作用としては、憂うつ、疲れやすい、骨折しやすい、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、性機能障害など、男性更年期障害のような症状が現れることがあります。

表 ホルモン療法で使用される主な薬剤

表 ホルモン療法で使用される主な薬剤

② 化学療法

がん細胞を直接攻撃するお薬を投与する治療法です。ホルモン療法の効果が期待できない場合や、ホルモン療法が無効になった状態に対して行われます。
有害事象として、食欲低下、脱毛、全身倦怠感などの症状や、白血球減少、好中球減少、貧血などの血液毒性があらわれることがあります。

③ 放射性医薬品

RI(ラジオアイソトープ)という放射性物質を用いた医薬品を投与することで、体内で放射線を出してがん細胞の増殖を抑える治療法です。骨転移のあるCRPCに対して用いられています。